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Conversation] Interview with AMD Developer for High Rise

開発者:猪口敏一 長坂整(ヤクモ株式会社)

ヤクモ株式会社 代表取締役社長 舟木英之 ✖ ヤクモ株式会社 技術グループ次長 長坂整

舟木:ヤクモではこれまで高層ビルでの風揺れ対策用としてパッシブ制振装置である水平振動用TMD(チューンドマスダンパー)の設計・製造を行っており、多くのお客様からアクティブも手掛けないのかという声が以前からありました。
AMD(アクティブマスダンパー)により高層ビルの揺れを抑えることでテナントの不安感を無くし、ビルの付加価値を上げるという市場ニーズがあることがわかったので、まずは錘(マス)質量1tの水平振動用AMDの開発から着手しました。1t AMDでは、設置させていただいたビルのオーナーのご厚意もあって常時監視を行うことができ、地震時も含め大量のデータが蓄積され続けています。このような背景のもと、大型AMD参入の機も熟してきたと考え100t AMDの開発を開始しました。

長坂:これまで実績のあるAMDを参考にして新型AMDの開発に着手しました。高層建築物の揺れを抑える水平AMDという装置は、一言で言ってしまえば錘を水平に動かすだけの装置です。なのでそう難しくはないんじゃないかと最初は思ってましたが、実際に開発してみると装置が大きく重いとか、耐候性や安全性、保守性が求められることもあり、容易ではありませんでした。

開発にあたってはどのような方針で進めましたか?

長坂:今回のAMDの開発コンセプトとして、さまざまな要望に対応できる性能を目指しました。そのた錘の質量は大きめ、ストロークも最大限に大きい仕様としています。必要な性能がこれより小さい場合、仕様を下げる設計変更は比較的容易だからです。
また、構成要素としてはどちらかと言えばオーソドックスなリニアガイドとボールねじを使っており、いわゆる「枯れた」技術を使っています。より挑戦的に新しい機構を使うことも考えましたが、開発の難易度を高くしすぎないことに留意しました。結果的に狙いどころは悪くなかったのではないかと考えています。

1tのマスが100tとなることで難しくなったことは?

長坂:フレーム全体の大きさが大きいと、一括で加工できないことと運搬が不都合になることから分割構造が必要になります。分割構造では連結したときの精度が確保されにくくなります。また歪みもあるので精度は期待できません。通常、リニアガイドやボールねじを並列に使うには100μmオーダーの精度が必要ですが、精度が出ていなくてもちゃんと動く構造にするのにも苦労しました。

さらに苦労した点があれば教えてください

長坂:まずは耐環境性ですね。高層用AMDは屋上に付けるので風雨に耐えなくてはなりません。大型のAMDではまるごとカバーを付けるとカバーのコストが大きいので、必要なところにだけカバーやシール部品を付けたり防食処理をしたりしています。
例えば、リニアガイドの通常のジャバラは屋内の防塵用のもので直射日光や風雨に耐えられなかったりするので、屋外での使用に耐えるものを特別に選定しました。個別のカバーや防食は難しかったところの一つです。
安全性の確保にも気を使いました。非常時に停止する手段としてモーター、ブレーキ、バッファの3つの手段がありますが、錘が非常に重いので急停止させたときにもフレームや構成部品が壊れないように強度設計をするのが大変でした。
 あとは全体の機器・フレームの構成・配置です。出来上がった製品が合理的な配置をしていると、見た人にとって違和感がないので「まあ、普通こういう形になるよね」と気に留めないかもしれません。しかし、実はその合理的な良い配置をみつけるのには機器の動作範囲、力のかかり方、組み立て作業や保守作業の空間の確保など考慮する事項がたくさんあり、設計する上で配置に苦労しました。「普通こういう形になるよね」という形にたどりつけるかどうかが設計者の一つの腕の見せ所かと思っています。

舟木:当社はエンジニアリング企業なので、差別化された技術をアピールしないといけないと考えており、これからも積極的にヤクモの強みを活かした商品の開発にチャレンジしていきたいと考えています。今回の開発により多くの技術的な知見を得ることができたと考えています。もちろん、大型AMDの実用化を目指しますが、今回得られたロバストな設計手法などの知見を、他の商品にも反映させたいですね。

長坂:今後の開発に今回得られた経験を反映していきたいと思います。
自分としては設計したものが実現して役に立つことが一番の喜びです。
今まで自分の設計したものが表に出るということがありませんでしたが、一般に使われる、人の目に触れるものを設計したのは初めてなので、今回携われてとてもうれしいです。
 今後も新しいもの、役に立つものを開発していきたいです。

~Profile~
 ヤクモ株式会社 技術グループ次長 長坂整
 東北大学博士前期課程修了 技術士(機械)
 機械設計を専門に、研究機関で約20年、研究用の試験装置や測定具などを設計。
 ヤクモ入社後は主に制振装置の設計を担当。