建物内の鉄骨階段を昇降時にきしみ音が発生!この階段大丈夫かな・・・

鉄骨階段の昇降時に発生するきしみ音により、関係者の皆様が階段の安全性についてご不安を抱かれていたケースです。騒音・振動の両面から詳細な分析・評価を行った結果、階段の安全性を確認することができ、関係者の皆様のご不安を解消いたしました。
第一事業部 技術グループ
孫 天洋 (ソン テンヨウ)
本事例の課題
鉄骨階段は一般的にきしみ音が生じることがあります。主な原因として、締結部の緩み、部材同士の摩擦、構造的な共振、温度・湿度の変化などです。きしみ音自体が必ずしも危険を意味するわけではありません。しかし、経年劣化や構造の弱体化が進んでいる場合、事故につながる可能性もあります。
今回の事例では、鉄骨階段を昇降時に、きしみ音が発生しており、不安だというご相談を受けました。そのため、振動・騒音の測定、データ解析を行い、きしみ音の発生箇所の特定と発生原因について調査を行いました。
測定概要
騒音測定
最初に、対象となる鉄骨階段を何人かが異なる歩き方で昇降を試したところ、特定の人の昇降のテンポできしみ音が発生することが分かりました。さらに、中間踊り場から2階までの途中の腰壁付近で、きしみ音が聞こえました。そこで、きしみ音の発生箇所を特定するために、階段昇降時の騒音測定を実施しました。
騒音測定点
中間踊り場から2階までの腰壁付近の5か所(S1~S5)としました。
振動測定
一方で、階段に発生する振動を検討するため、階段昇降時の振動測定にて大きさを確認しました。その結果を、建築物の振動に関する居住性能評価規準および歩道橋設計指針を用いて評価しました。
振動測定点
1階から2階までの3カ所(V1~V3)としました。
V1は1階から中間踊り場までの中央付近、V2は中間踊り場の中央付近、V3は中間踊り場から2階までの中央付近です。
騒音と振動の測定点を図1に示します。また測定イメージを図2に示します。

図1. 騒音・振動測定点

図2. 測定イメージ
測定結果
騒音
騒音レベルの結果より、きしみ音が発生する時(中間踊り場から2階までを昇降)、表1のS1~S5の騒音レベルを比べると、S1とS2付近の騒音レベルが若干高く、S1とS2(中間踊り場から2階に向かって5段目の腰壁)付近がきしみ音の発生源と考えられました。
表1. 騒音レベルの測定結果

測定点S1の騒音データに対して周波数解析の1つであるFFT解析を行いました。その結果より、きしみ音が発生する音は700 Hz付近のピークが確認できました(図3)。

図3. きしみ音のFFT分析(測定点S1)
振動
加えて、振動データに対してもFFT解析を行いました。測定点V3の常時微動より、階段の固有振動数は15.6 Hzであると推定しました。また、きしみ音が発生する時(踊り場から2階までを昇降)の測定点V3の振動データのピーク周波数は16.0 Hz、25.0 Hz付近でした(図4)。

図4. 階段の常時微動のFFT分析(測定点V3)

図5. 階段昇降時のFFT分析(測定点V3)
きしみ音が発生する時(踊り場から2階までを昇降)の振動データに対して、1/3オクターブバンド分析を行い、居住性能評価規準と歩道橋設計指針で評価しました。きしみ音が発生する時(踊り場から2階までを昇降)の階段の居住性能評価規準の評価レベルは、
V1はV-Ⅱ、V2はV-Ⅲ、V3はV-Ⅰとなりました。
表2. 鉛直振動の評価レベルの説明

※日本建築学会編「建築物の振動に関する居住性能評価規準・同解説」2018
また、歩道橋設計指針での評価結果はV1、V2、V3どれも「その場に立っている場合、少し感じる」というレベルを下回りました(図6)。

図6. 階段昇降時の発生振動[1/3オクターブバンド分析]
※社団法人鋼構造協会編「これからの歩道橋―付・人にやさしい歩道橋計画設計指針」1998
まとめ
・騒音測定の結果、階段昇降時の騒音測定点S1~S5の騒音レベルを比べると、S1とS2付近の騒音レベルが高いため、きしみ音の発生箇所はS1とS2付近(中間踊り場から2階に向かって5段目の腰壁)と考えられました。
・きしみ音の発生原因について、騒音・振動周波数成分の分析より、きしみ音の周波数成分が700 Hz付近でした。これは、階段の固有振動数15.6 Hzと大きく異なるため、きしみ音は階段自体の共振による固体音の可能性は低いと判断しました。また、現場状況から判断して、階段昇降時に振動した階段が、付近の部材(腰壁内の鉄骨等)と接触して発生する音と推測しました。
・階段昇降時の振動について居住性能評価規準や歩道橋設計指針に基づく評価を行いました。この結果から、測定された振動は階段構造物として許容できるレベルであり、構造上安全性に問題がないことを確認しました。利用者様が、階段昇降時の不安感を解消できる結果を示す報告ができました。