振動・騒音分析基礎(1)
オクターブ分析-まるわかりガイド

振動や音を評価するときに、オクターブ分析がよく使われます。そもそもオクターブって何?それを使ったオクターブ分析って何?などをわかりやすく説明します。

オクターブとは

オクターブ分析の「オクターブ」という言葉を音楽の話などで聞いたことがあるのではないでしょうか。西洋音楽では、低いドから次の高いドまでを8つの音程を1オクターブと呼んでいます。最初のドが261Hz(Hz:1秒間に振動する回数)、次のドが522Hzでこの2音が2倍の関係になっていることをオクターブと言います。

ピアノの鍵盤とオクターブの関係
図1 ピアノの鍵盤とオクターブの関係

オクターブ分析とは

オクターブ分析は、音や振動の周波数ごとの大きさを分析する方法です。音で説明すると、我々が普段聞いている音は様々な周波数成分の音が混ざって成り立っています。これらの音を適切な周波数帯域(バンド)に分割することで、音の周波数特性を理解することができます。1オクターブバンドごとに分割するのでオクターブ分析と言いい、63Hz、125Hz、250Hzと中心周波数が2倍ずつ異なる複数のオクターブバンド(帯域)に分けて分析します。なぜ周波数帯域毎に分けて分析する必要があるかですが、騒音規制法などの一般的な音の評価では、図2のような、全周波数成分の騒音の大きさであるオールパス(all pass)の騒音レベル(A特性音圧レベル:音圧レベルを人間の聴覚特性を考慮し補正したもの)を用います。

騒音レベルの時刻歴分析
図2 騒音レベルの時刻歴分析

このデータは、騒音の最大値や騒音のタイミング、間隔の傾向をつかむのには非常にわかりやすく、聴感上の音の大きさを評価するだけであれば、これで問題はありません。しかし、この音を低減させる対策を考える場合、どの周波数成分の音が大きいかを確認する必要があります。なぜなら、この騒音レベルが低い周波数成分の音が大きい場合、高い周波数成分に有効な騒音対策を施しても、音は小さくならないからです。問題となる音の周波数帯域に合わせた最適な騒音低減対策を行う必要があるため、オクターブバンド分析などの周波数を横軸とした分析が有効とされています。

オクターブ分析も時刻歴分析と同様、最大値や最小値、平均値または時間率騒音レベル(測定時間中の騒音レベルを大きいもの順に並べ変えてその大きさが全体の何%に相当するかを確認する分析方法。騒音、振動規制法の評価方法として用いられる。)をオクターブバンド毎に分析することが出来ます。

オクターブバンドの範囲

オクターブ分析で使われる代表的な中心周波数は、音だと31.5Hz、63Hz、125Hz...8kHzで、振動だと1Hz、2Hz、4Hz...125Hzです。中心という名のとおり、中心周波数を含めた、ある程度の帯域幅(バンド)を持っています。例えば1000Hzの場合は1000Hzを中心とした下限周波数710Hz〜上限周波数1400Hzの帯域のすべての音を表しています。続く2000Hzの場合は2000Hzを中心とした下限周波数1400Hz〜上限周波数2800Hzの帯域のすべての音といったように重ならないように全周波数をカバーしています。その幅は中心周波数が大きくなるほど大きくなります。なおオクターブバンド分析のオクターブとは、1/1オクターブバンドのことであり、より帯域を細かく分けて分析を行う場合には1/3オクターブバンド分析を使います。振動の場合は1/3オクターブバンド分析を良く用います。

JIS C 1513-1:2020「電気音響-オクターブバンド及び1/Nオクターブバンドフィルタ(分析器)-第1部:仕様」では1/1オクターブバンドの中心周波数と下限周波数と上限周波数は以下のように規定されています。

  • 中心周波数:fm
  • 下限周波数:fm/√(103/10)
  • 上限周波数:fm×√(103/10)

1/3オクターブバンドの中心周波数と下限周波数と上限周波数は以下のような関係があります。

  • 中心周波数:fm
  • 下限周波数:fm/6√(103/10)
  • 上限周波数:fm×6√(103/10)

1/1オクターブバンドと1/3オクターブバンドの関係図3 1/1オクターブバンドと1/3オクターブバンドの関係

表1 1/1オクターブ・1/3オクターブバンドの帯域と中心周波数
1/1オクターブバンド 1/3オクターブバンド 1/1オクターブバンド 1/3オクターブバンド
中心
周波数
[Hz]
帯域
[Hz]
中心
周波数
[Hz]
帯域
[Hz]
中心
周波数
[Hz]
帯域
[Hz]
中心
周波数
[Hz]
帯域
[Hz]
1 0.71~1.41 0.8 0.71~0.89 125 89.1~178 100 89.1~112
1 0.89~1.12 125 112~141
1.25 1.12~1.41 160 141~178
2 1.41~2.82 1.6 1.41~1.78 250 178~355 200 178~224
2 1.78~2.24 250 224~282
2.5 2.24~2.82 315 282~355
4 2.82~5.62 3.15 2.82~3.55 500 355~708 400 355~447
4 3.55~4.47 500 447~562
5 4.47~5.62 630 562~708
8 5.62~11.2 6.3 5.62~7.08 1000 708~1413 800 708~891
8 7.08~8.91 1000 891~1122
10 8.91~11.2 1250 1122~1413
16 11.2~22.4 12.5 11.2~14.1 2000 1413~2818 1600 1413~1778
16 14.1~17.8 2000 1778~2239
20 17.8~22.4 2500 2239~2818
31.5 22.4~44.7 25 22.4~28.2 4000 2818~5623 3150 2818~3548
31.5 28.2~35.5 4000 3548~4467
40 35.5~44.7 5000 4467~5623
63 44.7~89.1 50 44.7~56.2 8000 5623~11220 6300 5623~7080
63 56.2~70.8 8000 7080~8913
80 70.8~89.1 10000 8913~11220

オクターブ分析を用いた対策の実例

弊社でオクターブ分析を用いて分析し、対策を行った実例を紹介します。特定工場と呼ばれる、大きな音を発生させる機械を置いている工場は、騒音規制法により敷地境界での騒音レベルが規定されています。夜間は騒音規制法の規準が厳しくなるため、現状の状態(61dBA)では規制基準50dBAを満たさないことがわかりました。オクターブバンド分析の結果、125Hz〜4k(4000)Hzの音(特に250Hzと500Hz)が大きく、この帯域の音を大幅に低減させないと規制値である50dBA以下にはならないことが判りました(図4参照)。防音対策(具体的には建屋内の音源の位置を変更し、固体音対策として、機器の防振を行いました。)を施し、敷地境界の騒音レベルを61dBAから49dBAまで低減させた結果、夜間も稼働できるようになりました(図5)。

敷地境界における1/1オクターブバンド騒音レベル(対策前) 図4 敷地境界における1/1オクターブバンド騒音レベル(対策前)

敷地境界における1/1オクターブバンド騒音レベル(対策前後)
図5 敷地境界における1/1オクターブバンド騒音レベル(対策前後)

以上のように、オクターブバンド分析は、振動・騒音対策において有効な分析方法です。