建物の地震対策として代表的な「耐震」「制震」「免震」という3つの技術について特徴と違いをわかりやすく解説します。 建物の構造性能は、人命保護、損傷防止、機能維持の3つに分類されます。 人命保護は、建物の倒壊・崩壊を防ぐとともに建物周辺に危害を加えない最低限の性能です。 損傷防止は地震による建物の財産価値の喪失を防ぐ、あるいは修復を容易にして価値を取り戻す性能です。また、修復不可能な貴重な建物自体の文化的価値を保護することも含まれます。 機能維持は地震が発生した後も、建物として期待される機能を発揮する性能であり、建物内の収容物の保護も含まれます。 従来より、これらの性能を守るために、耐震設計が行われてきましたが、近年、より高度にこれらの性能を満足されることを目的に、振動制御のf設計が積極的に行われています。振動制御の方法としては大きく分けて制震と免震があり、いずれも耐震設計を基本として、振動制御の機能を付加して設計が行われます。
耐震 揺れに耐える
建物自体を強くして、地震の揺れに耐える設計方法です。柱や壁を頑丈にすることで、建物が変形しないように抑え、倒壊・崩壊を防ぎます。耐震構造は人命保護の観点からは必要十分な性能を得ることが可能ですが、激しい振動が生じた際は、建物に損傷が生じ、機能維持が難しくなる場合があります。1995年の兵庫県南部地震では、1981年に施工された新耐震設計法による建物は、損傷を受けても倒壊せず、人命保護の使命をおおむね果たしました。しかし建物自体は、損傷が激しく、取り壊された建物が多数ありました。また1995年の地震を踏まえてさらに強化した新耐震基準が2000年に施行されています。

図1 ビルの耐震のイメージ
制震(振)揺れを吸収する
制震(振)とは建物に入った地震の揺れを特殊な装置で吸収させ、建物の揺れを収まりやすくする方法です。振動に対し、抵抗力を作用させて、減衰させることで建物の揺れを抑えます。代表的なものに制震ダンパーやマスダンパー(TMDやAMD)があります。建物の揺れの増幅を防ぎ、揺れを早く収めるので、建物への損傷が少なくなります。従って、人命保護に加えて、損傷防止や、機能維持の性能もあります。
地震動に対しては制震ダンパーでの対策、風揺れをはじめとして居住性を対象とした領域の振動に対してはTMDやAMDで対策するのが一般的です。

図2 ビルの制震(振)のイメージ
免震 揺れを遮断する
地震時の揺れを遮断(建物に揺れを伝わりにくく)する設計です。代表的なものに、建物基礎部に設置する積層ゴム等の装置があり、地面の揺れを建物に伝えにくくします。その結果、上部建物に加わる揺れを大幅に低減させるので、人命保護だけではなく損傷防止、機能維持について高い性能を実現できます。

図3 ビルの免震のイメージ
※参照文献
日本建築学会 編 やさしくわかる建物振動制御