豆知識

TIPS

減衰とは-まるわかりガイド

振動の減衰について、減衰係数、減衰定数、減衰比といった専門用語の多さに混乱していませんか?
減衰は、振動対策における基本的な考え方であり、振動を理解する上で避けて通れない重要なテーマです。本記事では、減衰に関する各種用語を分かりやすく整理し、その基礎知識を徹底的に解説します。

 


振動の減衰

物体に外部から力が加わって振動が始まっても、その振動は永遠には続きません。実際には、空気抵抗、摩擦、熱への変換といった様々な抵抗が存在するため、時間の経過とともに振動の振幅は小さくなり、やがて静止します。
このような、振幅が時間とともに減少していく現象を「減衰」と呼びます。理想的な振動系では、入力がなくなっても振動は永遠に継続しますが、自然界では必ず減衰が生じ、振動は必ず収束に向かいます。

図1 減衰による効果のイメージ(振動の時間軸波形)

減衰の大きさの表し方と用語

まず、減衰の大きさを表す重要な用語を表1に整理してまとめました。
減衰の効果を解説する際、一般的に用いられるのが、抵抗力が速度に比例する「粘性減衰」のモデルです。この粘性減衰は、多くの振動現象をシンプルに扱うための基本となります。
この後の解説では、この粘性減衰を例として、より具体的な説明を進めていきます。

表1 減衰に関する用語一覧

用語記号単位説明
減衰力Fd[N]振動に対する抵抗となる力。
粘性減衰の場合は振動の速度に比例するので
Fd=cv
Fd:減衰力[N]
c:減衰係数[N/m/s]
v:速度[m/s]
速度にかかっている係数cが、振動に抵抗する力の度合いを表す「減衰係数」です。
減衰係数c[N/m/s]
減衰比ζ[なし]減衰の度合いを理解するために最も重要な指標の一つです。
実際の減衰係数cを、臨界減衰係数ccで割った比率(ζ=c/cc​)で表されます。この値は 0 から 1 (または 0% から 100%)の範囲で示されます。
つまり、減衰比が 1 に近づくほど、振動はより早く収束します。
減衰定数h[なし]減衰比と同じです。建築分野でよく使われます。

建築構造物の減衰比:構造種別ごとの目安

建築構造物の減衰比は、構造物の材料や性質、温度などの環境条件に大きく左右されるため、正確な値を求めるのは難しく、ばらつきが生じやすい特性があります。
そのため、設計や解析においては、実測データや実験結果に基づいた目安となる値が用いられます。構造種別ごとの一般的な目安は以下の通りです。

表2 構造種別ごとの減衰比の目安と一般的な採用値

構造種別減衰比 (ζ) の目安一般的な採用値
鉄骨造 (S造)0.01∼0.02 (1% ∼ 2%)0.02 (2%)
RC造 (鉄筋コンクリート造)0.03程度 (3%)0.03 (3%)

減衰比と振動の関係:自由振動と定常振動の比較

① 自由振動(入力がなくなった後の振動)

図2に示されているように、減衰比 (ζ) の値によって自由振動の波形は変化します。

図2 減衰比別の自由振動波形の比較

表3 減衰比ごとの収束までの時間と挙動

減衰比 (ζ)状態収束までの時間と挙動
小さい (ζ<1)不足減衰時間が経っても振動が長く継続する(収束が遅い)
ζ=1臨界減衰振動せずに最短時間で静止する(収束が最も早い)
大きい (ζ>1)過減衰振動せずに収束するが、臨界減衰より時間がかかる

② 定常振動(外力が加わり続けている状態)

図3は、定常振動における減衰比の影響を示しています。
 横軸(振動数比):入力の周波数と固有振動数の比率
 縦軸(振幅比):入力された力に対する振動の増幅率

グラフの横軸が1の時のピークの高さは、共振が発生した際の振動増幅度を表しています。
これを見ると、減衰比 (ζ) が小さいほど、共振時の山が鋭くなり、共振による増幅度合が大きくなることがわかります。つまり、減衰比が小さいほど共振によって大きな振動が発生するリスクが高まります。

図3 減衰比別の共振増幅度合の比較

振動の減衰を増すための装置:ダンパーの種類と仕組み

振動の減衰を意図的に増大させるために用いられる装置を「ダンパー (Dampers)」と呼びます。ダンパーは、その減衰力の発生方法によってさまざまな種類に分類されます。
ここでは、振動対策において代表的なダンパーの種類と、その基本的な仕組みを紹介します。

表4 代表的なダンパーの種類とその基本的な仕組み

種類減衰力の発生方法特徴・利用される抵抗
粘性ダンパー液体や気体などの流体が持つ粘性抵抗を利用抵抗力が速度に比例する(粘性減衰に相当)
摩擦ダンパー金属や高分子材料などのすべり運動による摩擦抵抗を利用抵抗力が一定(速度に依存しない)
履歴ダンパー金属材料などの塑性変形の繰り返しによる履歴特性を利用材料の変形エネルギーを吸収
マスダンパー振動系に取り付けた可動錘(質量体)の慣性反力を利用固有振動数をずらして振動を抑制(TMDなど)

 

導入事例

風揺れ対策事例

階段昇降振動対策事例