はじめに
制振(制震)技術は、地震で用いられる制震技術以外でも建築物やその他の構造物の振動(揺れ)を軽減するために用いられます。ここでは地震を除く環境振動の制振と制振デバイスに焦点を当てて解説します。我々の周りには様々な振動(揺れ)がありますが、制振デバイスが効果的な振動とはどのようなものでしょうか?ポイントをわかりやすく説明します。
制振デバイスが効果的なケース
制振入門(1)で紹介した、制振デバイスの1つである、制震ダンパーは、地震のような大きな振動でないと効果を発揮しません。そのため、ここでの制振デバイスはマスダンパーが中心となります。
マスダンパーは、構造物の固有振動数とその付近の揺れ、つまり共振に対して効果を発揮します。この性質を理解することが、制振技術を効果的に活用するカギとなります。
固有振動数と共振
固有振動数とは、構造体が持っている最も揺れやすい振動の振動数のことで、単位[Hz](ヘルツ)で表します。固有振動数とその周辺の振動数で、その構造体は揺れやすくなり、弱い力でも大きく揺れます。これを共振といいます(共振についてはこちらの豆知識「揺れが大きくなる現象「共振」-まるわかりガイド」をご確認ください)。
例:歩道橋の振動
歩道橋の場合は、図1のようにブリッジ部分が上下方向に振動するのが代表的な固有振動数の揺れです。この歩道橋の固有振動数が3 Hzであったとします。車両が道路を通過したり、人が歩道橋を歩いたりする力の中の、3 Hz成分の力によって、歩道橋の振動が共振し、大きな揺れが生じます。歩道橋を渡る際、不快なふわふわした揺れの正体は共振した固有振動数の揺れであることが多いです。
このような共振が原因の振動問題の場合、マスダンパーを取り付けることによって振動が低減し、問題解決につながる可能性が高いのです。
マスダンパーが効果的でないケース
一般に振動が問題となる場合の多くは、共振が原因であるケースが多いですが、中にはそうでない場合もあります。その場合はマスダンパーでは低減効果があまり期待できません。
例:ビルの振動と電気ドリルの振動
道路交通振動によるビル全体の横揺れ(仮に、固有振動数1 Hzとします)を低減するために、屋上にマスダンパーを設置したモデルを考えてみましょう。
ビルの固有振動数の振動を含む交通振動が地盤から入力される場合は、ビルの固有振動数と共振して大きな振動となります。この場合、マスダンパーは効果を発揮します。
一方、電気ドリルの振動成分はビルの固有振動数の振動をほとんど含んでいないので、共振は起きません。電動ドリルの高い周波数成分の振動がただ伝わるだけです。このような共振ではない振動については、制振デバイスは効果がありません。
振動の周波数応答特性
図3のグラフは振動の周波数応答特性と呼ばれており、前章のビルの揺れやすさを周波数ごとに表したものです。横軸の周波数は揺れの周期を表していて、左側がゆっくりした揺れ、右へ行くほど速い揺れとなります。縦軸は各周波数の揺れやすさを表している値で、数値が大きいほど揺れやすいことを示しています。
青のラインはマスダンパーがなく共振している場合、赤のラインはマスダンパーを取り付けた場合を示しています。制振デバイスを取り付けることで、元々揺れやすかった1 Hz周辺が少し揺れにくくなっていることがわかります。一方、このピークから離れたところでは、青と赤は重なっており、制振による効果はありません。
マスダンパーの適用事例
マスダンパーであるTMDやAMDは、環境振動のような微小な揺れから、強風や地震時の大きな揺れまで、幅広い振動に対応できます。また、水平方向(横揺れ)と鉛直方向(縦揺れ)の両方の振動に適用可能です。
TMDは、構造物の揺れを抑えるために使用される受動的な制振デバイスで、電源不要で、メンテナンスが原則不要の物が多いとされています。1つの固有振動数に対して効果を発揮します。
AMDは、アクティブ制御を用いた電気式の制振デバイスです。電源や電気部品を使用するため、メンテナンスが必要ですが、約10倍の錘のTMDと同等の制振効果があり、荷重や設置面積が厳しい場所にも設置できます。また複数の固有振動数に対して効果を発揮することが可能です。
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