制振入門(2) ~制振(震)はこんな場合に効果的~

制振(震)は構造体の固有振動数付近の揺れに効果を発揮します

 固有振動数というのは、構造体が持っている最も揺れやすい振動の速さのことで、単位[Hz](ヘルツ)で表します。[Hz]というのは1秒間の振動の回数ですので、数値が小さいほどゆっくりゆらゆらした揺れ、大きいほど速く細かい揺れということになります。

 例を挙げてみてみましょう。Aビルの代表的な揺れ方は下図のような形でその固有振動数が1Hzであったとします。これはビルの高さや柱の太さなどで決まるAビル固有の値となります。地震の時には地盤から地震波が入力し、主にこの1Hz成分(1秒間に1往復するゆらゆらする揺れ)で揺れることになります。

 次に歩道橋Bの例です。歩道橋はブリッジ部分が下図のような形で上下方向に変形するのが代表的な揺れのはずです。この歩道橋の固有振動数が3Hzであったとすると、大型車が通過したり、他の人が歩いている時に感じる少し不快なふわふわした揺れの正体がこのような固有振動成分の振動です。

固有振動数の例
図1 固有振動数の例

 このように振動(揺れ)問題で、実際に発生している振動成分が構造体の固有振動数と一致している場合、制振デバイスを取り付けることによって良好な効果が得られ、問題解決につながる可能性が高いのです。

 前述したように、振動問題の多くは、問題となっている揺れの主成分=固有振動数成分であるケースが多いですが、中にはそうでない場合もあります。その場合は制振では効果が期待できないため他の振動対策を検討する必要があります。

 下図は、先ほどのビルAに対して、地震時のビル全体の横揺れを低減するために、屋上にマスダンパー(TMD)を設置した図です。マスダンパーによる制振対策を行った状態であれば、地震と同じ地盤からの振動(揺れ)に対してはどんな場合も効果あるのでしょうか?例えば、前の地面を電気ドリルで掘削工事している時のガガガガガガ…という振動(ビル内に伝わり個体伝搬音という騒音問題になる場合があります)に対しても抑制効果を発揮すると思いますか?

 ⇒答えはノーです。地震波のようにいろいろな周波数成分を含む振動が地盤から入力される場合は、ビルの固有振動数も刺激され大きな応答となります。一方、電気ドリルのように速くて細かい振動成分のみが地盤から入力されるとビルの固有振動数は刺激されず細かい振動数成分だけで応答(伝わって揺れる)することになります。従って後者はビル側で固有振動数成分の揺れが発生せず制振の効果も得られないということになります。

制振(震)対策のイメージ
図2 制振(震)対策のイメージ

 最後に少しだけ技術的な内容を補足しましょう。今ご説明したことをグラフで表すと下図のようになります。このようなグラフは振動の周波数応答特性と呼ばれており、構造体の揺れやすさを周波数軸で表したものです。 横軸が振動数周波数[Hz]です。(先ほど説明した通り)ヘルツですので、グラフの左の方がゆっくりした揺れ(地震の時の建物揺れなどがそう)、右へ行くほど速く細かく揺れる(電動歯ブラシのブーンというような揺れ)ことを表しています。縦軸は揺れやすさを表している数値とイメージすればOKです。すなわちこのようなグラフでは、対象の構造物がどのくらいの速さの振動で揺れやすいかを表しています。下のグラフは先ほどのビルAの例です。グレーのラインが制振をしてない場合です。ビルAが最も揺れやすいのは、グラフの山のピークで1Hz(=ビルAの固有振動数)です。このビルに制振デバイスを取り付けると、グリーンのようにピークがなだらかになっており元々揺れやすかった1Hz周辺で揺れにくくなった(揺れを低減できている)ことが分かります。逆にこのピークから離れたところでは、グレーとグリーンは重なっており、制振をしてもしなくても揺れやすさの変化はない(=制振による効果はない)ということになります。

振動の周波数応答特性グラフ
図3 振動の周波数応答特性グラフ

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